サヤマ・リマスタリング

「2005年の日本代表監督考」第4回

──2005年5月、今のこの閉塞感はどこから来ているんでしょう。

佐山(以下、S) 安定感を得たくてジーコにした場合に付いて来る“利息支払い義務”みたいなことなのかな(笑)。劇薬・トルシエの場合は副作用にうんざりした訳ですけどね。ただジーコの場合、最終予選でのホームの勝ち方が薄氷を踏むパターンばかり。薄氷ばかりか今年3月のワールドカップ・ドイツ大会予選でのイラン戦アウェーでは、システム変更で虎の尾も踏んでしまった。「勝ってるチームはいじるな」発言で、前回のワールドカップ・対トルコ戦後に株を上げた人が、何で? と思った人は多いでしょうね。中田ヒデの取り扱いで苦労している風には見えないけど、監督業を日本代表の後も続けて行く意志がないと語ったあたりが案外見過ごされているところ(注)。中田にしてもドイツ大会がラストだと思っているから二人は妙に響き合うところがある。
(注:のちに前言を翻し、フェネルバフチェSK、イラク代表など6チームの監督を歴任する。)

 イラン戦に関しては、11万人が来場して将棋倒しによる死者まで出したテヘランのアザディ・スタジアムの雰囲気に呑みこまれてしまったかな。勝負勘より攻撃的に行こうとする信念のほうが先になったと言うか。「66分の福西のゴールで1-1の同点にしたあと、あなただったらどうしたか?」とサポーターにアンケートを取ったら面白い。ドーハの後、オフトの言った「ゲームを創れるようになったが、壊すことが出来るようになるまでにはなれなかった」の意味が再び重くのしかかってきた。イラン人は組織重視より一騎討ちの文化。しかもあの日は「春分正月」でスタンドはかなり浮わついていた。「ゲームを壊す」に再び挑む恰好の舞台だったんだけどね。

──なんだか加茂監督時代の'97年9月の日韓戦(●1-2〈前半0-0〉)を思い出しますね。67分に山口のループ・シュートが決まって1-0になったあと、73分に呂比須を下げてDFの秋田を投入したことの是非をめぐって、結局は議論倒れに終わりましたけど。
 S 高校野球の監督さんならベンチの端に立ったまま深呼吸と肩の力を抜くポーズで済むんだろうけど(笑)。「守備的」と「攻撃的」の二項対置じゃどうにもならないのがサッカーだからね。個々の力の総和をチーム力とした場合に、今の代表ぐらいの総和がいちばん「運」に左右されやすい。もう少し上か下なら、もっと戦法の必然性が出て来るんだけどね。

──サッカー・ジャーナリズムに今、この時点で求められていることは何でしょう。

S 戦術のことをいくら専門家ぶって言っても、監督の巨大な決断に影響を与えられることはないです。パスコースを一本でも増やして欲しいのにジーコの場合は僕らの中学時代にやってたようなシュート練習ばかり。でも“シュートこそラストのパスコースだ”と「神」にいわれたらもう殆ど返す言葉も無い訳で(笑)。

 解任論者にとっては代案としての次期監督の戦績が気になるでしょうね。Jリーグの監督から選ぶ場合は、第12節5月14/15日までの順位も微妙に影響するはずです。アジアチャンピオンズ・リーグに出ているクラブの監督なら、5月25日までにベスト8進出を果たしていたいところ。

──5月23日のキリンカップ、対ペルー、27日の対UAE戦の結果は参考にならないですか。

S あの横山監督が'88年1月から3年半もやれたのは、キリンカップの初優勝があったから。思い出したくもない、赤-赤-赤ユニフォームの時代です。だけど、今はペルー、UAEと続くキリンカップの戦績はさほど重視されないでしょう。
 やっぱりそれは最終予選の6月シリーズですよ。バーレーン戦と北朝鮮戦で2連敗したら結構厳しい。ただ、8日後のコンフェデレーションズ・カップ(ドイツ)は、ジーコ・ジャパンが昨夏、中国で苦労して取ったアジアカップの先にあるもの。連敗したとしても立て直しのために使われるべきだとの同情論も出やすい。そこはやはりすっきり勝って、対メキシコ(ハノーバー)、ギリシャ(フランクフルト)、ブラジル(ケルン)とドイツ大会の予行演習をして来たいところですよね。

──6月3日、8日と仮にアウェーで連敗したとしても、コンフェデ杯までに一週間しかないとなると、なかなか断を下しにくいでしょうね。

S 仮にコンフェデ3連敗のあとにジーコが何かの拍子で投げ出して辞任したにしても、Jリーグは7月2日に再開するし、チャンピオンズリーグのファイナルが5月25日水曜日で欧州クラブの監督市場も決着がついてしまっている。3位決定戦の可能性も視野に入れながらの8月17日のホーム、対イラン戦を当座一試合限定のようにして引き受けられる新監督が果たして居るものだろうか。7月31日からの東アジア選手権(韓国3都市)の3試合というのが、その場合は、チームを作り直す上でのアドバンテージにはなるのだろうけど(注)
(注:コンフェデレーションズカップ2005で日本代表は、グループBでメキシコ(●1-2〈前半1-1〉)、ギリシャ(○1-0〈前半0-0〉)、ブラジル(△2-2〈前半1-2〉)で3位敗退。2位進出で優勝したブラジルが、得失点差で日本を上回った。)

──となるとやっぱり、ジーコと一蓮托生というのがいちばん現実的な選択ということになりますか?

S 代表監督候補に関しては「人間株式市況」みたいな要素があるから、そううまく条件は噛み合いません。しかも昇格の可能性をはらむ日本人コーチを山本昌邦氏が五輪代表監督になってからは置いていない。ただ、強化委員会が常にリストアップしていることは確かだし、引き際でみっともない姿を見せるとは思えない。或る意味、そのための厚遇をジーコ・ファミリーにしている訳だし。(第5回につづく)
緊急発売 どうなるジーコジャパン!? (エンターブレインムック)
初出:『サカ通日本代表スペシャル』2005年5月/エンターブレイン
「歴史から学ぶ、日本代表監督名鑑。」を改題・補筆 聞き手:山城敬

※「サヤマ・リマスタリング」は毎週水曜日・金曜日に掲載予定です。