サヤマ・リマスタリング

「2005年の日本代表監督考」第3回

──日本代表監督のジーコに対しては、それぞれの立場ごとで評価が食い違うと思うんです。本当のところの評価はどうなんでしょうか。

佐山(以下、S) 前代のフランス人代表監督があまりに奇矯(ききょう)な人物だったために、就任当初は物凄い安定感を振りまいた。そこがまず押さえるべきポイントだと思います。冒涜的(ぼうとくてき)かもしれないけれど、「選手が下手で勝負強くなかったら、監督の女房に1日頼もうが同じ」という極論があります(笑)。

 チェルシーのモウリーニョ監督がベンチ入り禁止処分を受けながらも、なんとか欧州チャンピオンズ・リーグの準々決勝、対バイエルン・ミュンヘン戦を6-5で乗り切ったでしょ。ランパードは「やっぱり彼(=モウリーニョ)がベンチにいないと厳しいよ」と言ったそうだけど、バイエルン・ミュンヘンのマガト監督のほうとしてはたまりませんよね。勿論モウリーニョもUEFAとの冷戦を逆手に取ったりで、やり過ぎなくらいの策を講じていた。だからまあ、監督の女房は極端だとしても、そもそも論として草サッカーの監督でも出来なくはないという感じはある。

 これは揶揄している訳じゃないんです。“オネスト・ジーコ”の場合は、聞かれたまま馬鹿正直にメンバーやシステムを事前に言ってしまうことが今頃になって問題になってきたくらいで、そもそもがやっぱり偉大なる草サッカーの楽しさなんですよ。
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 極論的ということでは、『イングランド代表監督 マイク・バセット』(2001年=日本未公開/スティーブ・バロン監督)という映画作品があります。東部ノーフォークのノリッジ・シティFCの監督だったうだつの上がらぬ風貌のバセットが、(現実世界ではリーグカップでしか優勝したことがないのに、)FA杯を制したということで大出世。苦労しながらワールドカップ・ブラジル本大会に駒を進めて因縁のアルゼンチン戦でイングランドが「神の手ゴール」を決めてしまうという相当笑える内容(笑)。ナーバスじゃないというのも一つの才能なんじゃないですかね。

「自分が現役のときに思っていた理想的な監督像は、いかに〈いいオッサン〉かどうか」――そんな名言をU-17日本代表コーチ時代の小見幸隆さんから聞いたことがあります。つまり、現場とサポーターとの温度差がいちばん激しいのが監督論にまつわるもろもろなのかもしれない。それよりむしろ監督を選んだりクビを切るゼネラルマネージャー論のほうが重要なんじゃないかな。ドイツの『キッカー』では毎年恒例でマネージャー評価欄が掲載されると田嶋幸三氏から聞かされたのは'90年代のことでした。日本のメディアでの実現はいつのことやらという感じだけどね。昨日までサッカーと関係のなかったサラリーマンの親会社からの出向じゃ駄目なんですよ、絶対に。

──ジーコは自由尊重路線で、約束事がないと就任当初からいわれてました。結束ということではどうなんでしょう。

S 「国内組」だ「海外組」だと分けたがるけど、本当は先発組と控え組しか無い。出られない選手との一体感の欠如みたいなことが、もう10年以上も続いているでしょう。そこのところが、完全プロ化後の代表における重要課題の一つなのかもしれないですね。問題視されるべきは、むしろ日本人コーチの不在。ジーコは山本昌邦が去った後、TA(テクニカルアドバイザー)だった実兄のエドゥーにやらせている。協会も強要は出来なかったから、今頃になって少し後悔し始めた感じ。だけど、ジーコからすれば、日本人コーチは協会上層部に告げ口するスパイ役ぐらいにしか見えないとも言える訳でね。

 強化委員会と一枚岩でいられなかった過去の反省からか、代表スタッフへの取材は原則禁止。ただ今後、最終予選で勝てなくなったら、そこは必ず言われる部分でしょうね。勤勉な感じがしないと不安になるのが日本人だから、一体何の役割をあの兄貴はしているの、となりつつある。横山監督時代にリオでコパ・アメリカ優勝直後のブラジル代表と初対戦(●1-0/得点:ビスマルク))した際のブラジル代表の監督役だったという点では凄いんだろうけど、カーニバルで帰るよりフィレンツェに行って中田ヒデの様子を見て来るべき、と責め立てられる材料はいくらでもある(笑)。

 ただ、五輪世代の抜擢が少ないことによる安定感はあるんです。本大会への出場が決まったあとに突然違うことをするとも思えない。活性化の動きは相当鈍いけど、当座の安定感だけはある。サッカー界のカリスマだから「後先のこと考えているのか」というふうな意見を言いづらいというのもあるんでしょうね。しつこくなるけど、僕はやはりトルシエによる調教後遺症をジーコで癒している時間がまだ続いている印象を持ちます。それはリーグ、協会、メディアに共通して言えるんじゃないかな。

──その長い癒しの時間が今や閉塞感に変わってきていませんか。サポーターは連敗をしないジーコの運の良さにもいずれ限界が来るという意識に苛まれている。よく聞かれされる「でも、(ジーコの)他に居ないからね」は、さんざん悪口言ったあとの「でも、いい人よ」のフォローに似ているんです(笑)。

S コア・メディアが納得するのは、結局、オシムか岡ちゃんぐらい。だけど、いくら海千山千の監督でも、尻拭い的な役割というのは受けづらいものなんですよね。(第4回につづく)
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初出:『サカ通日本代表スペシャル』2005年5月/エンターブレイン
「歴史から学ぶ、日本代表監督名鑑。」を改題・補筆 聞き手:山城敬

※「サヤマ・リマスタリング」は毎週水曜日・金曜日に掲載予定です。